はじめに
KDDI株式会社(旧DDI)で36年間にわたり新規事業開発に携わり、59歳で起業を決意した竹島弘幸さん。キャリアコンサルタントの資格を取得し、AI技術を駆使した革新的な事業を計画されています。
フィンテック、海外事業、人材戦略と幅広い経験を積んだ竹島さんが、なぜシニア期での起業を選んだのか。そして、AI時代における新しいキャリアコンサルティングの可能性について、詳しくお聞きしました。
起業ストーリー:40代から温めていた独立への思い
長年抱き続けた起業への憧れ
竹島さんの起業への思いは、実は2015年頃から始まっていました。「会社にいると、どうしても言われたことをやることが中心になってしまう。漠然とですが、自分で事業をやってみたいという思いを抱いていました」と振り返ります。
しかし、当時はまだ明確なビジョンがなく、単純に独立したいという気持ちだけで、具体的な事業内容は決まっていませんでした。そのため、海外赴任などもあり、一度は起業の想いを胸にしまうことになります。
ミャンマー撤退がもたらした転機
本格的に起業を意識したのは2022年。ミャンマー事業撤退に伴い、現地スタッフの就職支援を行った経験が、大きな転機となりました。「現地スタッフの転職サポートや就職支援を担当する中で、人に関わる仕事の意義深さを実感しました」と振り返ります。
この経験から人材支援の意義を実感し、キャリアコンサルタントという職業を知ることになります。「日本でこのような仕事について調べてみると、キャリアコンサルタントという資格があることを知り、すぐに学校に申し込みました」と、すぐに学校に申し込んだ行動力は、さすが新規事業のプロフェッショナルです。
事業内容と価値提案:3つの軸を融合した独自のアプローチ
竹島さんが描く事業の3本柱
現在、竹島さんが取り組んでいる事業は以下の3つの軸で構成されています:
① 新規事業開発支援
- 企業クライアント向けの新規事業立ち上げサポート
- 長年の経験を活かした戦略策定からプロジェクトマネジメントまで
② キャリアコンサルティング
- 個人・法人向けのキャリア支援
- 研修・リーダーシップ研修・AI研修などの企画・実施
③ リベラルアーツ(アート・映画・音楽)
- 趣味領域からの新しいアプローチ
- AI技術を活用したコンテンツ制作
短期・中期・長期の戦略的事業展開
竹島さんは事業を時間軸で整理されています:
- 短期(今月来月): キャリアコンサルティングと新規事業プロジェクト支援で確実な収益確保
- 中期(1-2年): 法人クライアント向けサービスの本格展開。
- 長期(3年以上): フィジカルAI(ロボット+AI)分野での事業展開
特に中期戦略では、直接営業の困難さを経験し、関節販売的に他の企業と協力して営業を行う手法に切り替えつつ事業を拡大する手法を採用。既存の研修会社とのパートナーシップにより、大企業への参入を図る戦略的なアプローチを取られています。
起業の現実:不安との向き合い方と実践的な準備
経済的不安への対処法
「サラリーマンを30年以上続けていると、毎月25日には確実に給料が入るという安定感がありました。起業するということは、その安定がなくなります」
竹島さんも多くのシニア起業家と同様、経済的不安に直面しました。しかし、1年ほどの準備期間を経て基盤をつくることで、心理的なハードルを下げることができました。
退職前の準備期間の重要性
竹島さんは退職1年前から営業活動を開始。この準備期間について、「KDDIの看板ではなく、個人として営業活動を1年間行った経験は非常に大きな学びでした」と振り返り、他の起業希望者にも「準備なしにいきなり独立するのはお勧めできません」とアドバイスされています。
AI活用術:シニア起業家の強力な武器
驚異的なAI活用レベル
竹島さんのAI活用術は、多くの起業家にとって参考になるでしょう。特に印象的なのは、多様なAIツールを使い分けている点です:
- 汎用AI: ChatGPT、Geminiを用途に応じて使い分け
- 音声生成: AivisSpeech(アイビススピーチ)でテキストから自然な音声を生成
- 作曲AI: Sunoで楽曲制作。「キャリア理論」を歌詞にした教育コンテンツを制作
- 動画制作: Canvaと組み合わせてYouTube用コンテンツを制作
革新的なコンテンツ制作手法
特に注目すべきは、キャリア教育と音楽を融合させたアプローチです。「大学で教えているキャリア理論は内容は良いのですが、どうしても堅苦しく感じられがちです。これを歌という形で表現すれば、もっと親しみやすく、理解しやすいコンテンツになるのではないでしょうか」と語ります。
例えば「役職定年のおじさんの辛さ」をテーマにした楽曲では、ChatGPTで歌詞を作成し、Sunoで楽曲制作、最終的にYouTubeコンテンツとして配信する一連のワークフローを企画中で、着々と準備されています。
VRとAIの融合によるキャリア相談
さらに先進的な取り組みとして、VRChat内でのキャリア相談サービスにも参画されています。「カウンセラーも相談者もアバターとして参加し、メタバース空間内で相談を行う」という新しい形態は、「特に若い世代にとって、顔出しをせずアバター状態で相談できる方がハードルが低いようです」という新しい気づきを提供しています。
起業の現実:壁と乗り越え方
最大の課題:商品化とマーケティング
竹島さんが直面している最大の壁は、3つの軸をうまく商品化できていないことです。自分自身の整理が十分にできていないということと、市場に明確なニーズがまだ顕在化していないという両面の課題があります。
この課題に対し、現在は「明確なニーズが存在する分野から事業をスタートさせる」戦略を採用。完璧な商品パッケージを待つのではなく、まずは市場が求めているサービスから着手し、徐々に自身の理想とする事業形態に近づけていく現実的なアプローチを取られています。
大企業との取引における戦略転換
直接営業の限界を感じた竹島さんは、戦略を大胆に転換。「直接販売にこだわる必要はないと判断しました。確かに直販なら利益率は高くなりますが、そもそも受注できなければ意味がありません」という現実を受け入れ、各種提携を通じた間接販売手法を採用しました。
シニア起業の強み:経験値という武器
「泥臭い世界」を知る強み
竹島さんが語る興味深い視点は、AIでは学習できない「リアルな経験値」の重要性です。「実際のプロジェクトには、政治的な駆け引きや利害関係の対立、表に出ない様々な課題が存在します。こうした複雑な要素は、プロジェクトの成否に大きく影響するものです」
この経験値は、若い起業家では決して得られない貴重な資産です。「AIは主にネット上の情報から学習するため、どうしても理想的で綺麗な世界の情報が中心になります。しかし現実のビジネスには、そうした情報だけでは対応できない複雑な側面があり、これが自分の強みだと考えています」
パートナーシップ戦略の巧みさ
営業面での課題を「多くの人が敬遠しがちな営業業務を積極的に引き受ける」というアプローチで解決。「販売代理店として機能する場合もあれば、共同でのパートナーシップという形もあります」と、柔軟な協業体制を構築し、win-winの関係を築いています。
今後の展望とネットワーキング
フィジカルAI分野への長期投資
最も興味深いのは、ドイツのロボット会社との連携による「フィジカルAI」分野への取り組みです。現在のChatGPTに代表される技術の次の段階は、物理的な作業を伴うAI、つまりコンピューター画面の中だけでなく、実際に物を動かせる技術になると考えています。
短期的収益を追求せず、業界とのネットワーク構築を重視し将来のビジネス機会を育てています。
求める連携・パートナーシップ
- 竹島さんが求めているのは各分野との柔軟なコラボモデルです
「クライアントの利益を最優先に考えれば、必ずしも私一人が全てを提供する必要はありません。自分にない強みを持つ企業は数多く存在します」という姿勢で、全取り型ではなくチーム型での事業展開を志向されています。
シニア起業家へのメッセージ
AI学習の重要性と具体的アドバイス
「AI技術を活用することは、様々なビジネスチャンスに繋がるため、積極的に取り組むべきです」と強調する竹島さん。特に大企業と個人事業主の間には、AI活用における大きな知識格差が存在している現在は絶好のチャンスだと分析されています。
AI活用のメリットとして以下の3点を挙げています:
- 業務効率化: 調査や分析作業の大幅な時間短縮
- 新しい収益機会: AI技術を活用した新サービスの創出
- 競争優位性の確保: クライアント側がAIを使う時代への対応
早期起業の重要性
「もっと早く起業すべきでした。現在59歳になりましたが、理想的には51、52歳頃だったと思います」と振り返る竹島さん。
理由としては、事業によっては長期間を要するものもあり、5年スパンで考えた場合には50代後半で起業した場合は、5年後は65歳近くになってしまうことを挙げられています。
「人生設計の考え方を見直す必要があるかもしれません。サラリーマンでなければ、75歳でも80歳でも現役で活動できるわけですから」と、従来の定年概念にとらわれない新しい人生設計の重要性も指摘されています。
健康管理とワークライフバランス
59歳での起業について体力面を心配する声もありますが、会社員特有のストレスがないことで、むしろ健康的だと感じられています。
「翌月の売上があるか」といった不安は常に存在しますが、総合的には精神的負担が軽減されているとのことです。
まとめ
竹島弘幸さんの起業ストーリーは、シニア世代ならではの豊富な経験と、AI時代の新しい技術を見事に融合させた現代的なビジネスモデルの可能性を示しています。
特に印象的なのは、直接営業から間接販売への戦略転換、AI技術を活用した革新的なコンテンツ制作、そして長期的視点でのフィジカルAI分野への投資など、経験豊富なシニア起業家ならではの戦略的思考です。
また、「全取り型ではなくチーム型」での事業展開を志向し、自身の強みを活かしながら他社との協業を積極的に進める姿勢は、リソースが限られるシニア起業家にとって参考になる重要なアプローチと言えるでしょう。
AI時代における「キャリアコンサルタント×AI×音楽・アート」という独自のポジショニングは、竹島さんの今後の事業展開が大いに注目される理由でもあります。シニア起業を検討されている方々にとって、竹島さんの挑戦は勇気と具体的な指針を与えてくれる貴重な事例となるでしょう。
竹島弘幸さん プロフィール

- 事業内容: REBOOOT合同会社 代表
- 専門分野: キャリアコンサルティング、新規事業開発、フィジカルAI
- 経歴: KDDI株式会社(旧DDI)で36年間、新規事業開発に従事。auじぶん銀行、ウェブマネー、海外事業等を歴任
- 起業年齢: 59歳(2025年5月)
- 保有資格:
- 国家資格キャリアコンサルタント
- 1級キャリアコンサルティング技能士
- 外国人雇用労務士
連絡先・協業希望
キャリアコンサルティング、新規事業開発、AI活用支援に関するご相談や、フィジカルAI分野での協業にご興味のある企業・個人の方は、REBOOOT合同会社までお気軽にお問い合わせください。
mail: takeshima@rebooot.jp
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