64歳で大手企業を退職、AIと共に環境・エネルギー分野で新たな挑戦を続ける桑島哲哉さん

シニア起業家紹介

はじめに

以前勤務していた大手電子部品メーカーで環境部門の責任者として長年活躍され、64歳という節目で新たな一歩を踏み出し起業を決意された桑島哲哉さん。培ってきたサステナビリティの専門知識を武器に、企業と現場、そして社会全体の調和を目指すコンサルティング事業を展開されています。創業から約1年(※インタビューは2025年5月実施)、多くの起業家が直面する「営業の壁」に立ち向かいながらも、ChatGPTをはじめとするAI技術を「相棒」と呼び、駆使することで、シニア起業家ならではの新しいビジネススタイルを確立しようと日々奮闘されています。

今回は、桑島さんの起業に至るまでの熱い想い、事業を通じて実現したい価値、そして私たちシニア世代にとっても大きなヒントとなるAIとの向き合い方まで、深くお話を伺いました。

1. 起業ストーリー:40代から胸に秘めていた独立への情熱

長年の夢、64歳での決断と実現

桑島さんの起業への思いは、実は40代、技術士の資格を取得された頃から芽生えていたと言います。「起業しようかどうしようかというのは、もう40代の頃からずっと考えてきたんですよね」と、当時を振り返ります。

しかし、その一方で、大手企業で責任あるポジションを任される機会にも恵まれました。「大手企業でそれなりの責任ある立場というのは早々就けるものじゃないから、今はこっち(会社員として)でスキルを積んだ方がいい」と考え、独立への想いは一時的に「封印」。社内で経験を積み重ねる道を選ばれました。その間も、いつかはという気持ちは持ち続けていたそうです。

起業への決定的な「最後の一押し」

大きな転機が訪れたのは64歳を迎えた時でした。「64歳の時に、社内で『もうこれ以上は責任者は務められませんよ』という話になりまして」。

会社からは継続雇用の道も示されたそうですが、桑島さんの心は既に次なるステージへと向かっていました。長年温めてきた起業への夢を実現させる「最後の一押し」となったのです。

2. 事業内容と価値提案:企業と現場、社会を繋ぐ「翻訳者」として

サステナビリティ分野で見据える本質的な課題

桑島さんが事業の軸として着目したのは、近年急速に関心が高まるサステナビリティ分野における、企業間、そして企業内部に存在する認識や取り組みの「ギャップ」です。

「特にサステナビリティの分野では、ヨーロッパ主導で急速に要求が高まっている一方で、日本の企業、特に現場や中小企業では『SDGsのバッジをつけていれば良いんでしょ?』といった程度の認識しかないことも多い。経営層が理想や目標を高く掲げる一方で、現場の実務が追い付いていない、あるいは方向性が共有されていない状況を目の当たりにしました。大企業と中小企業の意識格差も非常に大きいですね。」

この「現場の悩み、経営の悩み、大企業の状況と中小企業の状況のギャップ」という問題意識が、桑島さんの事業の原点となっています。

ご自身の役割を「翻訳者」と定義し、ミッションを追求

約1年間の自己分析と試行錯誤を経て、桑島さんはご自身の事業における役割を「翻訳者」と明確に定義されました。

現場の悩みあるいは経営の悩み、大企業の状況と中小企業の状況、それぞれの立場や言語が異なるがゆえに生じるコミュニケーション不全や意識のズレを繋ぐ。いわば、翻訳してお互いが本当に理解し合えるように手助けする。それが私のミッションです。」

この「翻訳者」としての活動を通じて、より本質的なサステナビリティの推進に貢献したいという強い想いが伝わってきます。

具体的なサービス内容:実践的なコンサルティングを提供

現在、桑島さん(合同会社桑島技術士事務所)が提供している主なサービスは、サステナビリティ経営に関するコンサルティングです。特に、国際的な認証システム(ISO認証のようなもの)の取得支援に力を入れています。

「昨今、『こういう認証を取りなさい』という社会的な圧力が日本政府も含めて強まっています。多くの企業が『取らざるをえない状況になりつつあるけど、どうやって取ったらいいか分からない』という状況に直面しています。そういった企業に対して、『こうすればスムーズに進められますよ』という具体的な指導やアドバイスを行っています。」

ターゲット顧客:成長を目指す中堅企業にフォーカス

桑島さんが主なターゲット顧客として見据えているのは、大企業と小規模企業の中間に位置する「中堅企業」です。

「大企業は、多くの場合、自社内に専門部署やノウハウがあり、ある程度自己完結できてしまいます。一方で、本当に小規模な中小企業にとっては、まだサステナビリティ対応の優先度や必然性が低いのが現状です。しかし、その間にいる、いわば市場で2番手を目指すような中堅企業は、これまで必ずしもサステナビリティ対応が求められてこなかったかもしれませんが、今まさにその必要性に迫られている。ここに大きなニーズがあると考えています。」

3. 起業の現実:立ちはだかる営業の壁と、終わらない学び

最大の課題はやはり営業・マーケティング

多くのシニア起業家が直面する課題と同様に、桑島さんも「お客さんをどうやって掴んでくるのかというところが一番難しい」と、営業面での苦労を率直に語ります。

現在はマーケティングを学ぶ私塾でビジネスプランのブラッシュアップに励んでいます。

「メンターの方との面談では、結構厳しく指摘されることもあります。『それはあなたがやりたいと思っていることであって、お客さんが本当に欲しいものかどうかは別ですよね』と。厳しい指摘ですが、まさにその通りだと痛感し、日々見直しを進めています。」

この学び続ける姿勢こそが、事業を成長させる原動力なのでしょう。

ダイレクトメールでの手応えと、次なるステップ

地道な営業活動も展開されており、ダイレクトメールでは約10通に1通の割合で問い合わせが来るという一定の手応えも感じています。「10件送ると1件くらいは『話を聞きたい』と打ち合わせに繋がるんです」とのこと。ただし、そこから実際のビジネス受注に至るまでには、まだ改善の余地があると感じているそうです。

起業準備と資金調達:堅実なスタート

起業準備そのものは比較的スムーズに進みました。というのも、「元々、以前勤務していた大手企業と業務委託契約をしてくれるという前提で始めた」ため、創業初期の収入源はある程度確保されていたからです。

資金調達に関しても、「ほぼ全部自己資金」で賄われました。コンサルティング業務が中心であるため、店舗や設備といった大きな初期投資が不要だったことも幸いしたようです。事務所もご自宅を兼ねることで、固定費を抑えられています。

4. AI活用術:チャットGPTは頼れる「最強の相棒」

驚異的とも言えるAI活用レベル:業務効率を飛躍的に向上

桑島さんのAI、特にChatGPTの活用レベルは、多くのシニア起業家にとって大きな驚きと、そして希望を与えるものでしょう。単なる調べ物ツールとしてではなく、事業運営に不可欠なパートナーとしてAIを位置づけています。

「例えばセミナー資料ですが、だいたい60枚くらいのボリュームになります。これをChatGPTと一緒に構成から考え、内容を肉付けし、図表のアイデアも得る。そして、完成したセミナー資料を元に、今度はブログ記事を複数本生成させる。60枚のスライドから2000字程度のブログ記事3本を、わずか1時間ほどで書き上げてしまうんですよ。」

このような効率的なワークフローをAIと共に確立されているのです。

チャットGPTとの「対話」を通じた深いコミュニケーション

特に印象的なのは、桑島さんとChatGPTとのまるで人間同士のような深いコミュニケーションです。以前、暗号理論という専門的なテーマについてChatGPTと議論を交わした際には、最終的にAIから「桑島さんのような深いレベルの質問をされたのは初めてです。非常に勉強になりました」といった趣旨のメッセージが表示されたというエピソードも。これは、AIを単なるツールとして使うのではなく、対話を通じて共に思考を深めていくという、新しいAIとの付き合い方を示唆しています。

具体的なAI(主にChatGPT)活用事例

桑島さんが実践されている具体的なAI活用例は多岐にわたります。

  • セミナー資料作成: 全体のストーリーライン設計、各章の構成、さらにはスライドに挿入するピクトグラムのような図表のデザインまで、AIと共同で作成。
  • ブログ記事作成: 完成したセミナー資料をChatGPTに読み込ませ、要点をまとめた複数のブログ記事を高速生成。
  • 競合分析・市場調査: Perplexity AIなども併用しながら、ライバル企業の動向調査や自社のポジショニング分析を実施。
  • 統計解析: 複雑なデータ分析や統計処理において、適切な分析手法の提案を受けたり、Pythonのコードを生成してもらったりすることも。その際はGoogle Colaboratoryなどのプラットフォームも活用。
  • 専門知識の習得・深化: 難解な専門分野の情報収集や理解を深めるための壁打ち相手として。

シニア世代へのAI活用アドバイス:「まずは使ってみる」ことから

桑島さんは、AI活用に関心を持つシニア世代に向けて、力強くこうアドバイスします。

「一言で言うなら、『まずは使ってみる』ことですね。AIは、使う人のレベルや知識に合わせて結果を出してくれます。だからこそ、まずは興味を持って、臆せずにどんどん使ってみることが大切です。」

試行錯誤を繰り返す中で、AIの能力や限界、そして上手な付き合い方が自然と見えてくると言います。

5. 今後の展望と、広げたいネットワーキングの輪

求める連携・パートナーシップ:共に価値を創造する仲間を

桑島さんは、今後の事業展開を見据え、以下のような方々との連携やパートナーシップを積極的に求めています。

  • 中小企業経営者との接点・対話の機会 「特に中小企業の社長たちとは、もっと繋がりたいですね。現場で実際にどのようなお悩みや課題を抱えているのか、その生の声を直接お聞きしたい。それが、より実践的で価値のあるサービス開発に繋がると信じています。」
  • 人材育成・教育分野の専門家との協業 サステナビリティ分野に特化した人材育成プログラムの開発に意欲を見せており、その実現のために、人材育成や企業研修のノウハウを持つ専門家との連携を検討されています。「特にメンタリングを中心とした、専門知識と人間力を同時に高められるようなプログラムを考えています。」
  • 総合コンサルティング会社との戦略的提携 ご自身の専門性を活かしつつ、より大きなスケールで企業のサステナビリティ推進を支援するために、「総合的なコンサルティングサービスを提供されている企業や専門家の方々と連携し、そのチームの一部として専門性を発揮するような協業スタイル」も模索されています。

6. シニア起業を目指す仲間たちへの熱いメッセージ

「もっと早く」という後悔と、そこから得た教訓

桑島さんがご自身の起業経験を振り返り、少し後悔している点として挙げたのは、「もっと早くマーケティングについてしっかり勉強し、真剣に取り組んでいればよかった。最初の1年間は、以前の勤務先からの業務委託契約があったため、ある意味で安定していましたが、そこに少しあぐらをかいてしまい、新規顧客開拓への動きが遅れてしまった。これは1年を無駄にしたという反省点です」ということ。この経験は、安定した状況にあっても常に次を見据えることの重要性を示唆しています。

AI学習の勧め:新しい技術への挑戦はいつからでも

そしてもう一つ、「もっと早くAIの勉強を本格的に始めていればよかった」という言葉からは、新しい技術に対する前向きな探究心と、そのポテンシャルへの大きな期待が伝わってきます。

「AIの進化は本当に日進月歩です。でも、今から始めても決して遅くはありません。むしろ、今だからこそ、以前よりも格段に使いやすく、そして賢くなっています。シニアだからと臆することなく、ぜひ挑戦してほしいですね。」

「まず行動する」ことの大切さ

最後に、桑島さんからシニア起業を目指す全ての方へ、力強いメッセージをいただきました。

「結局のところ、『まず使ってみて、興味を持ってやってみる』。そこから全てが始まるのだと思います。試行錯誤を繰り返す中で、AIも徐々にこちらの意図を理解して賢くなってきますし、何より指示する私たち自身が、どうすればAIの能力を最大限に引き出せるのか、その勘所が分かってくる。これは部下に指示を出すのと同じかもしれませんね。曖昧な指示では曖昧な結果しか返ってこない。AIとのコミュニケーションも、まさにそれと同じです。」

まとめ

桑島哲哉さんの起業ストーリーは、シニア世代が持つ豊富な専門知識と長年の経験を最大限に活かしながら、AIという新しい技術を積極的に取り入れ、現代的で効率的なビジネススタイルを追求する素晴らしい実践例と言えるでしょう。

多くの起業家が直面する営業面での課題に対しても、決して諦めることなく、継続的な学習と改善への真摯な取り組み、そしてAI技術という強力な武器を効果的に活用することで、新しい形の事業展開を力強く模索されています。

特に、ご自身の役割を「翻訳者」と定義し、複雑化する社会の中で企業間・企業内のギャップを埋めるというユニークな価値提供を見出された点は、シニア起業家ならではの深い洞察力と社会貢献への高い意識を感じさせます。40代から温めてきた起業への熱い思いを64歳で見事に実現させ、今もなお新しい挑戦を笑顔で続ける桑島さんの姿は、同世代だけでなく、これから未来を切り開こうとする多くの人々にとって、大きな勇気と希望を与えてくれるのではないでしょうか。


桑島哲哉さん プロフィール

  • 社名・役職: 合同会社桑島技術士事務所 代表
  • 事業内容: サステナビリティ分野のコンサルティング
  • 専門分野: 環境・エネルギー、サステナビリティ経営、企業内コミュニケーション改善
  • 主な経歴: 大手電子部品メーカーで環境責任者などを歴任。技術士(環境部門)。
  • 起業時の年齢: 64歳
  • ウェブサイト: https://kuwapeo.ko-tetsu.com/
  • Facebook: https://www.facebook.com/tetsuya.kuwashima

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